自家製ライムジュースで味わうギムレット
(GIMLET)

「ギムレットには早すぎる」。レイモンドチャンドラーのハードボイルド小説「長いお別れ」で有名なセリフだが、Bar,Kのギムレットは早すぎない。長い年月の上に成り立っている。
「メニューにあるカクテルのレシピはどれも結構作り込んでいますが、1つだけ選べと言われれば、ギムレットですね。お店を任された頃から、日本においてギムレットは重要なカクテルだと思って、いろいろ作り込んできて、現在の形になりました」。 
30年以上前は、フレッシュライムがなかなか入手できない状況だった。高価でもあったので、コーディアルライムで作るのが一般的。それを使ってジンとともにステアやシェイクで作るのが一般的だったが、「長いお別れ」の中で、「ギムレットはローズ社のライムジュースを使って、ジンと1対1でシェイクするのが本物だよ」というセリフがある。ただ、1990年代前半はローズ社のライムジュースは日本では手に入りにくかったが、「たまたまお客様のハワイ土産でいただいたんです。行くたびに買ってきてくださったので、それを使って、マーロウのギムレットを作っていました」。しかし、その後再び入手が難しくなり、「じゃあ自分で作ろう」と一念発起。「25年前、自家製のライムコーディアルを作り出したのはおそらく、大阪では初めてだったのではないかなと。時代時代で多少、変えていますが、ずっと作り続けています。ただ、当初のローズ社のものに似た味かといわれると、そうではなく、お店のお客様の好みに合わせてアレンジしています。レシピは一応秘密ですね(笑)」。実は海外では意外にもポピュラーなカクテルではなかった。近年では人気が出てきているが、かつてはメニューにすらない国もあったとか。なぜか日本では昔から好まれ、スタンダードとなっている。
「長いお別れ」で主人公の私立探偵マーロウは実はそれほどギムレットにこだわりがなかったが、ギムレットが好きな友人のレノックスとバーで飲む時はいつも最後はギムレット。別れを惜しみ、また会おうと意味を込めていた。また飲みたくなる味。それがギムレットだ。  





キューバまで行って作り上げたモヒート
(MOJITO)

米国の文豪、アーネスト・ヘミングウェイが愛してやまなかったカクテルが2つある。一つはダイキリ、もう一つがモヒート。いずれも、後年を過ごしたキューバで楽しんでいたもので、「わがダイキリは フロリディータ、わがモヒートはボデギータ」とお気に入りの店のことを話していたという。
1990年初頭、日本でもモヒートを楽しむ機運が高まっていた。「ところが日本には、レシピなどの文献がなかった。ようやく見つけた海外のカクテルブックには、シェイクしてつくるスタイルが掲載されていたが、キューバのものとは別物でした。ちょうど知人とカリブ海、メキシコへ旅することになったので、2日だけキューバまで足を伸ばしました」と店主の松葉。
実際にボデギータで飲んでみて、レシピを頭に叩き込んで帰国。当時は珍しかったキューバスタイルのモヒートを完成させた。枝付きミントの葉をグラスに少し注いだソーダとともに丁寧に潰す。そこにラム、ライムジュースを加えてステア。クラッシュアイスの入ったグラスにソーダを足した後、 沖縄から取り寄せているサトウキビをスティックにして飾る。
「アルコールをドンと感じるのではなく、むしろ爽快感。現地のものは炭酸も多めで、味も薄め。そのぶんグビグビ飲みやすい。それを少し日本の氷の状態の良さを生かしたり、ラムの保存状態にもこだわり、ライムとかレモンの味わいのあるアレンジをしています」
まさに時代を先取りした本場の味をさらに飲みやすくしたそのカクテルは2007年、ハバナクラブ主催のモヒートコンテストでグランプリを獲得した。モヒートといえば、Bar,K、松葉氏の代名詞。飲まずにはいられない一杯となる。








 

アイルランドの炎を感じて
(ILISH COFFE)

北緯54度。寒さが厳しい北の地で生まれたのがアイリッシュコーヒーだ。飛行場のパブのバーテンダー、ジョー・シェリダンが搭乗待ちの乗客のために考案。ヨーロッパから大西洋横断空路の給油待ちをするアイルランドのシャノン空港でも、地元のウイスキーと酪農大国としての自慢のミルクを使ったカクテルは寒さをしのぐために人気を得た。
店主の松葉は、メニューに加えようとアイルランドを訪れ、「いろんなところで飲みましたが、あまりにポピュラーなためか、味わいはとてもシンプル。作り込んだ感じが余りしなかった。コーヒーは薄めで、高級感がなかった」。ところが、帰りに寄ったロンドンのサボイホテルのバーでオーダーすると、「コーヒーが濃く、程よいアルコールバランス。冷たさと、温かさが絶妙に表現されていた美味しかった。コレや!、と」。
エスプレッソマシンやハンドクリーマーなど道具の進化で日本のオーセンティックバーにも定着するようになったが、仕上げに炎を上げるスタイルは、まるでマジックを楽しむかのよう。鮮やかに刻まれたウォーターフォードのグラスで味わえる高級感漂う逸品だ。




グリーンレモンの酸味の爽快感
(SKY BALL)

しまなみ海道のほぼ中央に位置する愛媛県・岩城島。国産レモン、それも有名なグリーンレモンが毎年秋に店に届く。その青いレモンの皮を丁寧に剥き、高アルコールのスピリッツで熟成。皮のエキスを抽出してウオツカで伸ばし、液体の中に波動が生まれる沖縄の波動瓶で熟成させる。それを瓶に詰めて原液を作る。それが、スカイボールの元となる。
銅製マグは、溶けやすい、口につけたときに冷たいなど弱点があるが、すず職人のお客様から、勧められ、陶器と貴金属の間の触感のすず製マグを手に入れたことで、それにあうカクテルを、ということでメニューインしたスカイボール。ウオツカベースにレモンの風味が爽やかでトニックウオーターで仕上げる。さっぱりとした口当たりは、モヒート、ベリーニと並んで夏の人気のカクテルとなっている。





パリとロシアの融合によるオリジナル「ハイストリートフィズ」
(HIGHSTREET FIZZ)

当店のカクテルメニューで、一番最初に掲載しているのは「ハイストリートフィズ」。 スタンダード中心の品揃えの中で、お勧めできるオリジナルカクテルである。 誕生のきっかけは、 パリのリッツホテルのヘミングウェイバーのヘッドバーテンダーで「世界で最も偉大なバーテンダー」に 選ばれているコリン・ピーター・フィールド氏が2012年にセミナーで来日した時のことだった。 以前から気になっていたオリジナル「セレンディピティ」を初めて口にする機会があり、心に刺さった。 カルバドス、パイナップルジュース、砂糖、シャンパン、ミントを使用したレシピ。 その絶妙な配合バランスに魅せられた。 まさに「セレンディピティ」の言葉の意味の通り、「素敵な偶然による、新たな発見」だった。
その後、ロシアのサンクトペテルブルクのバーを訪れた際、バジル、エルダーフラワーを合わせたショートカクテルにヒントを得た。 その場でレシピを書いてもらい、試行錯誤。 ミントはモヒートでよく使われるが、バジルを使ったカクテルは当時は少なかったことから、 ジン、エルダーフラワー、グレープフルーツジュース、ジャンパンをレシピとすることで独特の風味とバランスが生まれた。
パリとサンクトペテルブルクのエッセンスを詰めた味わいは、海外からのお客様にも好評をいただいているカクテルである。 ハイストリートとは、繁華街を意味し、ロンドンの中心地では地名にもなっている。 当店は、大阪北新地の「上通り」沿いにあることから、それも加味してオリジナルカクテルの名前に冠している。